(Consideration ) 冤罪と在留資格

 刑事事件に関して、我々の認識を遥かに超える件数で冤罪が存在する可能性があるらしい。これは、強制わいせつ罪などのうち軽微な処罰にあたるものほど、その確率が高まるようだ。つまり、自白と勾留解除の天秤で、自白(無実であっても)に落ちるケースがずいぶんあることが否めないそうである。今村核弁護士の著書によれば、連日の勾留取り調べの中で、無実を主張することが困難な精神状況に陥る人が大半であり、無実獲得への強力な精神的支えなくしては、自白がもっとも「安楽な」選択肢であるらしい。

ところで、私はたまたま、外国人の在留申請を業としているが、外国人が例えば強制わいせつ罪などの容疑をかけられ勾留取り調べを受けることとなり、犯行自白となれば、訴追→有罪→在留資格喪失(拘留中に在留資格更新等ができずに喪失あるいは、刑によっては入管法24条により退去強制処遇)への可能性が高くなる。

以上の2点を俯瞰するに、外国人が何某かの刑事事件犯罪容疑者となり、実は犯人ではなかった場合、果たして無実の立証に成功しそれまでの在留資格を保持し続けることは、どれくらいの確率で可能であろうか。


翻って、5年ほど前の事案を思い起こさずにはいられない。

事件は、以下のあらましである。

I国人女性Xは、EPA看護師資格者として2年ほど前から在留していたが、勤務先の介護施設でいじめにあったという理由で職場を放棄し、それにより在留資格は失効していた(オーバーステイ)。ところが、半年ほど前にB国人男性Y(永住者)と日本において婚姻したため、「永住者の配偶者」としての在留特別許可を求めて当方へ依頼をしてきた。ところが、女性Xの話を聞くに、配偶者Yは、2週間前に「路上を歩いていた日本人女性の体を触った」との疑いで、逮捕、勾留中であった。

この際、Yが不起訴処分となれば、Yの配偶者としてXがもとめた在留特別許可の申告は、実態調査へとすすめられる可能性が多いにあったが、結局、Yは起訴され(従前に同種の犯罪で執行猶予処分とされ、今般の逮捕は、当該執行猶予期間中でもあった)在留特別許可の調査は保留されることとなり、その後、申告は却下処分とされた。これは、結局、Yの在留資格そのものの存続に疑義が生じることとなり、Yの在留資格を前提とするXの配偶者たる在留資格審査は行うことができないという判断である。

ところで、当方では、Yの起訴前に、Yが起訴となるか不起訴となるかにより当該受託業務への進退を図る必要があったため、警察署に勾留中のYへの面談をXの付き添い者として実施し通訳を同伴してYに事態の確認を行なっていた。その際、Yの回答は「やっていないと思う」「わからない」などであったが、小職も通訳も、そのような回答の下には、やはり、『やっているに違いない。なぜなら、やっていなければ、やっていないとの主張に徹すはずである。』と信じて疑わなかった。(Xだけは、無実の可能性を信じていた。もっとも、自身の在留資格審査に関わってくることであるから、無実以外は受け入れられないだろう。)また、冤罪などというものは、身近に存在するはずはないとも考えていた。


しかし、もし、これが冤罪であったなら。


だが、われらの職域を遥かに超えた領域である。







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